2013/07/14

大衆薬「エパデール」から考えるOTC市場の活性化


今週の東洋経済に大衆薬の特集が載っていた。

個人的には、大衆薬は作る側(製薬メーカー)、売る側(ドラッグストア・薬局)、買う側(一般市民)、3者に加え、傍観している側に重要なプレーヤーがいる点が話をややこしくしているように思う。

傍観している側にいるのは、保険診療している医師・医療機関と保険診療の支払をしている保険者、そしてOTCの認可など市場を統制している行政だ。エパデールのOTCについては以前ブログで販売が認められたことを書いた(http://meditur.blogspot.jp/2012/10/blog-post_26.html)が、承認までは医師からの反発が強かったと聞く。

■医者を受診して、OTC薬を買いに来るパターンはあり得るのか!?

エパデールのOTC薬を買うときの流れが東洋経済に詳しく載っているが、正直、最後の値段のところでノックアウトだ。医者で処方箋をもらったら1,000円ちょっと(医者でかかる診察料、検査代や薬局でかかる管理料なども含めるともう少しかかる)のものを、薬局で6,000円弱出して、OTCを買う『金銭感覚の鈍い人』がどこにいるのだろうか。

シナリオ1 とりあえず薬局に来た健康意識の高い人
健康診断で脂質異常症 → 医者にいかずにまず薬局に、という人の流れを想像してみる。ドラッグストアでエパデールOTCのライバルは次のようなものになるだろうか。

・ EPAのサプリメント
・ 黒烏龍茶などの「気になる人」向け食品
・ 大柴胡湯のような漢方薬
・ 脂質異常症向けでもなんでもない「こんにゃくゼリー」のようなダイエット食品

ここから見えてくるのは、ライバルが強いのではなく、エパデールのOTCが弱い、ということだ。6,000円弱という金額は心理的ハードルが高い。売っている薬剤師ですら『実はお医者さんでもらったら、もう少し安いんですけどね』と思っているに違いない。

シナリオ2 高脂血症で医者にかかっている人

すでに医者でエパデールをもらっている人がOTCに移行するシナリオは・・・正直難しい。

その1:検査結果が改善してきたため、処方をやめるとき
「良くなってきたので、薬を出すのは今回までです。次回以降、気になるようであればOTCでどうぞ」なんていうシチュエーションが想像できない・・・。

その2:まだ薬を処方するほどでない人
「まだ薬を飲むほどではないと思いますが、気になるようであればOTCでどうぞ」なんていうシチュエーション。やっぱりこれも想像できない。


■OTC薬の販売には保険診療のカバー範囲のコントロールが必要

上述のシナリオ2で考える。医師は高脂血症であればエパデールを処方できる。そこで保険診療上の処方できる範囲を狭めたらどうだろうか。簡単に考えるため、高脂血症のレベルを、健康・軽症・重症の3段階に分けよう。健康な人は医者に行く必要もない。現在、軽症・重症の人はエパデールが保険で処方される。これが、軽症の人は保険で処方できない(処方されるとしても自己負担割合が高くなる)、重症の人は保険で処方される、と変わったらどうだろうか。

4週間分で考えてみる。処方薬は薬価以外に医師の診察・検査料、調剤薬局での基本料、調剤料等、4,000円~8,000円程度(10割負担)の費用がかかるが、仮に6,000円(10割負担)かかることとする。

 OTC:店頭価格 11,600円
 処方薬(10割負担):7,308円+6,000円=13,308円
 処方薬(3割負担):2,192+1,800円=3,992円 ★
 処方薬ジェネリック(10割負担):2,738円+6,000円=8,738円
 処方薬ジェネリック(3割負担):822円+1,800円=2,622円 ★

どうだろうか。金銭的な負担で言えば、★印の3割負担のマジックにより、負担が大幅に軽くなっていることが分かる。長期服用となる薬ほどOTCに手を出しづらい。

軽症の人は薬剤費だけ保険でカバーされなくなったとする(再診料などは3割負担)。すると以下のような選択肢に変わる。

 OTC:店頭価格 11,600円
 処方薬:7,308円+1,800円=9,108円
 処方薬ジェネリック:2,738円+1,800円=4,538円

ようやくOTCが戦えるかも?と思える範囲に入ってきた。(本題からはそれるが、10割負担だとジェネリックの安さが強烈だ) 例えば、保険者が支払いをコントロールし、セルフメディケーションを促し、「軽症の人はぜひOTCを活用すべき」としたら、OTC市場も活発になり、医師不足が叫ばれる中での医師の負担軽減に、受診抑制が貢献できるかもしれない。
(アメリカでOTC市場が大きいのは保険でカバーされる範囲が限定的だったり、保険に加入していない人が多いせいもある)

保険者は「どこに、何にお金を払うべきか」、今以上に口を出すことで、有限な医療費・医療資源の効率的な活用を促進し、OTC市場・セルフメディケーションを活性化させることができるように思う。