2015/11/06

カバー率は医療の質を表しているか

昨日は福岡で開催されている学会で客観的に医療の質の評価を試みた発表を聞いた。

医療の質と聞くと、一般人は「腕がいい」「病気が判る・治る」「患者に優しい」といった項目が挙がってくる。そのようなバックグラウンドもバラバラで、治療方法すらバラバラで、さらに個々人の感覚的評価であったりする。

これは車の品質・性能と考えても一緒だ。燃費や価格、デザイン等々の製品を買う消費者的な品質と、製造原価や、工程数、期間、歩留まり等々の生産者的な品質がある。生産者の観点での品質が上がれば、それは消費者視点での品質である価格や性能に反映されるため、どちらも大事である。

昨日の学会では、どちらかと言えば、生産者的な観点での医療の質の議論がなされており、消費者的な観点(患者側の観点)ではないものが多かった。

そのような中で、患者側の観点ではないものの、公表されているデータから質を推し量る発表等は非常に興味深かった。急性期医療の質を評価する指標として、DPC公開データや、DPC参加病院に付与されている機能評価係数Ⅱを用いる内容は勉強になった。

機能評価係数Ⅱは計算式も開示されており(元データは分からない)、透明性の高い指標であり、学術的な研究にも十分耐えうる指標と思われる。しかし、係数には特徴があり、客観的な質の指標には相応しくない側面もある。

例えば、カバー率である。

カバー率というと、感覚的理解では、より多くの疾患をカバーしている病院を評価する指標のように思うが、実際は異なる。下の図のように、単純に病床数に依存した指標である。

2014年度の機能評価係数Ⅱのデータから作成したカバー率係数と病床数の関係性
なぜカバー率係数が病床数に依存しているか説明しよう。
2人の主婦がいる。ひとりは料理研究家(A)。もうひとりは普通の主婦(B)。このふたりについて1ヶ月30日の夕食のバラエティ(カバー率)を比較してみる。

(A)料理研究家 (B)普通の主婦
日本料理 6回 日本料理 13回
中華料理 5回 中華料理 9回
フランス料理 4回 イタリア料理
8回
イタリア料理 3回
スペイン料理 3回
韓国料理 2回
メキシコ料理 2回
ドイツ料理 2回
タイ料理 1回
トルコ料理 1回
インドネシア料理 1回


明らかに料理研究家の方がバラエティに富んでいると思うだろう。

しかし、機能評価係数Ⅱのカバー率は、「たまにしか作らない料理は除外する」みたいなルールがあり、月5回以上作った料理(赤字で書いた料理)の数をで評価する、みたいなことになっている。そのため、カレーとラーメンとパスタしか作れない普通の主婦は、バラエティ3種類。料理研究家は日本料理と中華料理の2種類。結果として、バラエティは料理研究家より普通の主婦の方が富んでいるという評価になる。

上記の主婦の例は単純化した例だが、実際のカバー率係数もほぼ同じだ。病床が多い(=料理人が多い)ほど最低基準を超える病気の数が増える。カバーしているか否かよりも、基準を超えるか否かの影響が大きいために、上のグラフのような病床数に依存している結果が出てきてしまう。

医療の質を測るのであれば(特に、その結果でインセンティブを与えるのであれば)、より適切に評価することが大事であり、必要があれば評価方法を改善すべきだろう。

昨日聞いた学会の発表は大変興味深かったものの、使われた指標のひとつがカバー率係数であったため、残念ながら、あまり意味がないのでは??と思った次第だ。

次の改定の議論の中で、カバー率係数の話は出ていない出ているが専門病院への配慮程度と思われ、次の改定では抜本的には変わらないだろう。適切なインセンティブを付与する意味でも、少し見直したほうが良いと思うのだが・・・。

2015/11/06  一部体裁、文言を修正
2015/11/07 
 DPC評価分科会の検討状況を反映・修正