2016/03/22

住民と共感を持って「ともに歩む」 書評: 若月俊一著作集 第六巻 私の病院経営

今回読んだ本はこれ→ 私の病院経営 (若月俊一著作集)(クリックするとAmazonのページへ)

今週のキーワードは「共感」になるのかもしれない。先日のクリーブランドクリニックの話(クリーブランドクリニックの話は病院業界に留まらない改革のケースに 書評: サイロ・エフェクト 高度専門化社会の罠)でも鍵となっていた言葉が「共感」だった。今回の若月先生の本でも住民との「共感」という言葉が出てきた。改めて、色々と考えることが多い。

病院経営に関する内容では、不思議と30年前の話が今でも通じる。医療費抑制・財政再建という命題は、永遠に続くテーマなのだろう。この本の冒頭の書き下ろし部分から、文章を引用する。
地域の中で、「地域医療のシステム化」の名のもとに病院のランクづけが行われる。おそらく知事を議長とする地域医療審議会の決定によって、地域を、センターホスピタル(center hospital)、サブホスピタル(sub-center hospital)、さらに、サテライト(satellite)すなわち、衛星病院というように格付けされ、分けられて、官僚的統制が強まるのではないか。
地域医療構想における機能分化の議論との類似性を感じる。さらに続く文を引用する。
私など、率直にいって、こういう場合を懸念して佐久病院を大きくしたという面もあった。そのため、いままで従業員の諸君にたいへん迷惑をかけてきたが、無理して一〇〇〇近いベッド数にしたという面もないではなかった。そうしておけば経営に間違いが少ないだろうし、だいいち各科を全部きちんとそろえ、研修医指定病院の指定をとっておけば、地域の医療のためのプラスにもなろう。そういう今後の統制の先を見透してやったつもりもあったが、率直にいって、苦労も多かったし、危険もあった。
大きくした佐久総合病院が、この本から30年の時を経て、佐久医療センターと佐久総合病院に分割されているが、その大元の課題感は、今でも通じるものだ。総合入院体制加算による報酬や、DPC病院Ⅱ群の評価事項として挙げられている内容を考えれば、「今後の統制の先を見透して」と書いているが、30年先も見透していたと言ってもよいかもしれない。

また、興味深いのは、次の文章。
ところで、政府の政策に対して″反対、反対″と叫ぶのは大事なことである。けれども、今日どうしてもその声が、国会に通らないという現実もある。そういう現実をしっかり見る、冷めた目も必要ではないか。いったい、今日、どうしてこんなに医者や病院の評判が悪いのか。たしかに不真面目な医者もいたし、金儲けばかりしていた病院もあった。それを抑えるためには仕方がないとしても、私たちのような真面目な病院まで、なぜこんなきびしい医療費抑制政策に追いこむのか。今後、この分でいくとつぶれる病院が増えてくるのは確実である。
医療費抑制政策は今も然りだ。潰れる病院が増えるという話も、無くならない。30年前にも危機感は非常に強かったことが分かるのが次の一文。
日本に約九八〇〇の病院があるが、この二割近くがこの数年間につぶれてしまうのではないか、といわれている。例えば、国立病院でさえも、この数年間に、いまの二五〇の四分の一近くを統廃合してしまおうという。経営の悪い病院は「間引」かれてしまうということである。そういう時代にいまや私たちは突入しているわけである。
実際には、病院はさほど潰れず、現在8,500弱程度だ。ただ、地域医療構想や公立病院改革ガイドラインなどを踏まえれば、この先も、こういった危機感は続くことだろう。

言葉遊びに過ぎないが、次の文章において、レーガノミックスをアベノミクス、中曽根さんを安倍さん、「行革。臨調」を「社会保障と税の一体改革」にそれぞれ置き換えると、まるで最近書かれた内容に思えてくる。
どうして、私ども医者や病院が真面目な仕事をしているのに、こんなにいじめられるのかと訴えたくなる。もちろん厚生省が「行革。臨調」の線で総医療費抑制政策を強行していることが主因であろう。「小さい政府」理論にして、あまり国民から税金をとりたてないという建前の政策だという。国債をこれ以上出さないという。そのために要らない国家財政の支出はどんどん切ってしまうという。いわゆる「レーガノミックス」というレーガンの政策であり、それを中曽根さんもやろうというわけである。それが「行革・臨調」の線として私どもの医療面にその政策がくるときには、たいへんひどい圧迫的なものになる。なぜなら、結局、国家財政のゼロ・シーリングといっても、防衛費だけが突出し、医療と福祉がマイナス・シーリングになってしまうからである。しかし、何しろ国民の意見を代表する政治家たちが、多数決でこれを通してしまうのだから困ってしまう。
ここまで例示したものは、今読んでも不思議と通じる内容であり、過去から学ぶことが多いと改めて感じた点の一例だ。(なお、臨調や、それ以降の医療制度改革等の歴史については、二木立先生の「TPPと医療の産業化」の第二章が「流れ」を意識でき、理解しやすい)

一方で、当然ながら時代の流れから大きく変わっている内容もある。病診連携や厚生連のあり方などは今の考え方と異なるように思うが、当時の課題感を理解でき、それはそれで興味深い。

診療報酬改定を前に、色々考えさせられる内容だった。